
かつて、NYのイーストビレッジにMars Barという汚い(笑)バーがあった。
どんどん安全でキレイになっていくマンハッタンの中でも、イーストビレッジは再開発が遅かったところで、90年代に入ってからやっと、ハーレムと同じように一般の観光客も足を伸ばせるようになった場所でもある。
80年代までは、いや90年代になってもまだ、ジャンキーはゴロゴロ、道路にはゴミ、売れない老いぼれたアーティスト、パンクロッカーたち、ドラッグディーラーは怪しく街角に立ち。。。といった感じだった。
ところがここ20年でなんと変わったことか。
今や「トレンディ~~」感たっぷりの若者&ツーリストの街に早変わり。
ジャンキーがゴロゴロ、ドラッグディーラーがうようよしていた公園は、今ではベビーカーを押す若いママたちがいるのだから時代の変化というのはすごい。
きちゃないビルを取り壊し、真新しい高層アパートが建ち並ぶ一画に、Mars Barは姿を変えずに居座っていた。

このバーは、イーストビレッジが荒れていた全盛の80年代後半にオープンし、20数年間街の変化を見続けて来た。
これらの写真は2年前に撮ったもの。
なぜなら、今回はもう撮れなかったから。
そうなのだ。なんと去年の夏にこのビル全体が取り壊されたのだ。この後は12階立てのアパートが建つとか。
この一帯はジェントリフィケーションが激しくて(その一掃は"Tsunami"とまで呼ばれていた)、近くにはWhole Foodsまで出来て様子が一変したのだ。
かつては店そのものがパンク・アートであり、伝説の安酒場と呼ばれていたが、街の住人が変わるにつれて、普通のお兄ちゃん、いわゆるトラスタファリアン君(甘やかされた白人金持ち坊やのくせに、マリファナを吸う、ドラッグをするようなヒッピー指向がある人。そういう「ちょい悪」に憧れているお坊ちゃん)たちも集まるようになった。
私も人のことは言えない。なんの苦労もせずに育った恵まれたお嬢さんだ、所詮。だからこそ、トラスタファリアンの気持ちがよくわかる。自分もそうだから。だからあえて、自嘲もこめて彼らをバカにする。
だが、人は生まれを選べないのだ。貧乏に生まれるのも、金持ちに生まれるのも、その人の選択ではない。
貧しく生まれて金持ちに憧れることを否定出来ないように、金持ちに生まれたお坊ちゃんが”はずれた道”に憧れるのも否定はできない。生まれたまんまの所に満足して(あきらめて?)安泰する人よりは、私はトラスタファリアン君たちにずっと親近感を覚える。
私のような地元民じゃない者もこういう店に入れてしまうのは、この”お坊ちゃん”客たちのおかげでもある。
モノホンのヒッピー、パンク、アナーキー、あるいは年季の入ったジャンキーたち揃いだったら、絶対尻込みしてしまう。
ジェントリフィケーションというのは一般の人(そこに昔から住んでいない人)にとってはとてもいいことなのであろう(だから行なわれるのだ)。
確かに治安の悪い所がよくなることはいいことだ。だが、治安の悪さとともに古きよき物(例えば古い歴史のあるコミュニティとか)もそれと一緒に必ず取り壊されるのだ。
いい面をあげれば、取り払われる事よって、ここから向こうは「あっち」の世界。。。みたいな区切りが曖昧になり、「あっち」の世界にも気軽に足を向けられるようになるってことだ。
だけれど、一度ジェントリフィケーションの波は始まると止まらないので、新しい物が必ず勝ってしまう。そう、「こっち」の世界も「あっち」の世界も仲良く共存。。。。なんて上手くはいかない。

Mars Barのトイレというのがこれまた汚くて、なんかちょっと怖かったな。
映画「トレインスポッティング」で、ユアン・マクレガーがトイレで吐くシーンがある。あのトイレと同じくらい汚かった。
あれは映画のセットだが、このバーは実際に人が使っていたのである(苦笑)。
そういえば、この店は衛生管理状の問題で、しばらく閉鎖していたこともあったそうだ。
ボトルやキッチンから大量のショウジョウバエが発見されたとかで(笑)。
見た目も汚いバーだったが、本当に中身も汚かったのだ。あっぱれだ。

一つの歴史が終わった。さようなら、Mars Bar。
バーの話ついでにもう一つ。イーストビレッジの老舗。
McSorley's Old Ale Houseは、この場所にて1854年開業の堂々たる歴史あるパブ。

さすがさすがの、店の風格。
こういう店もいいものだ。
こちらは有名店でもあるので、観光客がガイドブック片手にキョロキョロしながら入っていける店でもある(笑)。
見ているとやっぱり、アイリッシュ系(←偏見?)白人観光客たちが、当たり前のように「旅行中も昼間っから飲むぜよ」ってな雰囲気で、夫婦、家族で入って行くのであった。
私も最近年齢とともに、パンクがいるバーよりは、老舗店の方が落ち着くようになってきたww
いや、まだまだ。。。。 まだどちらも行ける境界線にいる限りは、どちらも彷徨おうと思う(酒は飲めないんだけど)。

★★ここでNY日記を続けようと思ったのですが、NY別ブログを作りました。
「New York ノスタルジー」こちらをどうぞよろしく♪
『黒人コミュニティ、「被差別と憎悪と依存」の現在』高山マミ著
亜紀書房より5月9日発売!
Amazonビーケーワン丸善&ジュンク堂楽天ブックスセブンネットショッピング『ブラック・カルチャー観察日記』高山マミ著
全国の書店で好評発売中!!
オンライン書店(以下は一部)
Amazon丸善&ジュンク堂楽天ブックスセブンネットショッピングビーケーワン紀伊国屋書店BookWeb