皆に愛されたGreasy Spoon

Posted by ジャンヌ(Mami Takayama) on 08.2012 Vanishing Chicago
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シカゴのサウスサイドにあるBridgeportという町は、古くからアイルランド系の移民街。
シカゴの運河建設のために多くの労働者が必要とされた1830年代。アイルランド系移民たちが次から次に、この町に労働者としてやってきた。
イリノイ州は賃金の代わりに安い土地の所有権を労働者に与え、大勢のアイルランド系がこの地域に住み着いたというわけだ。

その後イタリア系もやってきて、アイルランド、イタリア、リトアニア系が住み分ける地域だったのに、今ではヒスパニックと、特に中国系の勢力がすごくなり、アイルランド系は目立たない存在になってしまった。

ボストンでもそうだけれど、アイルランド系移民街というのは、歩いていても、リトルイタリーや中華街のように面白くない。
何故かと言うと、イタリア、中国、メキシコ系の人たちなどは豊かな食文化を持っているので、通りにはパン屋、肉屋、魚屋、デリ、スイーツ屋、そして数えきれぬ程のレストランというのがまたたくまに溢れる。
食べることを愛する民族というのは、町の形成も食文化が中心になる。

ところがアイルランドというのは、元々貧しい食文化背景。移民も同じ。
何が大切かというと、食べることよりも飲むこと(笑) 
食の探求よりも(食べ物は、とにかくお腹に入ればいい、と言った感じ)、寒さと貧しさを酒で紛らわそう!みたいなムードが根底にあるのか、パブはあってもレストランとか食材を扱った店が極端に少ない。

それと、イタリア人街もメキシコ人街もチャイナタウンも、見た目が華やかで外部の人間も見ていて(漢字が読めなくても)楽しい!みたいな雰囲気があるのだが、アイルランド人街には、それが。。。。。ない。

食文化が発展しなかったから、音楽や文学が発展したのではないか?と思うくらいだ(笑)
(いや、日本のように食文化も文学も大いに発展した国もあるぞ。)



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前置きが長くなってしまったが、この昔ながらのアイリッシュタウンに、1929年から開業しているレストランがあった。
「あった」と過去形なのは、つい先月、82年の歴史に幕を閉じてしまったのである。

Ramova Grillという名前は、隣にあった劇場から付けられた。
1929年というと、この界隈がとても賑わっていた時代であろう。
シチリアやナポリからのイタリア移民が多くいたのだから通りは騒がしかったであろうし(笑)、子供の数もハンパなかったはずだ。ちょうど今のメキシカンタウンのような勢いがあったのだろう。




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こういうレストランは、一般に英語でGreasy spoonと呼ばれる。
20世紀初頭に沢山出現した、ワーキングクラス用の店。
店の形態としては、長いカウンターがあり、ビニールパッドのスツールが並んでいる。
テーブル席はある所もない所も。
今は時代が変わって、こういうノスタルジックな雰囲気が好きな(?)普通にカッコいいお兄ちゃんとか、若いカップルなんかも来ていたりする。
だけど、メインはやっぱりおっさん(笑)。 おばさん一人(私?)ってのはいない。
これは一体なんでだろう? 女性といえばカップルではいるのだけれど、一人では入ってこない(私は入るがw)。
日本の居酒屋と同じような感覚なのかな(でも私、お酒を基本的に飲まないので日本の居酒屋一人体験というのはいまだに未経験)。



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メユーは大体決まっている。
こちらも典型的なアメリカン。
フライドエッグ、ベーコン、ソーセージ、ハッシュドポテト、フレンチトースト、ハンバーガー、フレンチフライ、チリスープ、チキンヌードルスープ。。。。etc.


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これはフレンチトースト。
ホイップクリームとかブルーベリーだとか可愛らしいものが付いていない、オーソドックスなフレンチトーストです、もちろん。でも美味いんだよ、これ。


飲み物はコーヒー、紅茶、アイスティー、そしてコーラなどの炭酸ドリンク。
そしてフレッシュオレンジジュース。


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この店には、年季の入ったスクイーザーが。

料理は、当たり前だがこういう店で「質」を期待してはいけない。
元々労働者を対象にした「早く料理が出てくる」ことを売りにした店なのだ。
世の中にマクドナルドなど、ファストフードのフランチャイズ店などまだ無かった時代の店なのだ。

料理の質を、日本のそれとアメリカやイギリスのそれと比べてはいけないが、こういう店やダイナーでも、アメリカで「美味しい!」と感じるのはフレッシュオレンジジュース。




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この店の名物はホームメイドチリ。
肉無し(ベジタリアン用)と肉入りがあるが、バッチリ私は肉入りで。

チリは美味しいのです、ホント。



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手書きのメニュー版も味わいがある。

こんな歴史ある店がなくなるのは寂しいことなのだが、オーナーの2人が「もう引退したい」そうなのだ。
1960年から働いているそうで。おつかれさま、である。

こういうGreasy spoonは、アメリカの都市からどんどん消えて行く。
かつてはNYの街にも沢山あったのだが、ジェントリフィケーション&観光化&家賃の値上がりなどなどで、こういう店がどんどん追い出されて行く。
かつてより、労働者階級の数が圧倒的に減っていることもある。
アメリカ人の食べ物の選択が確実に広がったこともある。

「時代遅れ」な雰囲気はいささかあるけれど、他の店にはない歴史の詰まったこういう店がつぶれていくのを見るのは寂しい。
このムードに惚れて何度か通わせてもらったRamova grill。
ウェイトレスがよく動き回って働くんだわ。そして心から愛想がいい。気持ちのいい店だった。



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この店無きあとは、チャイニーズレストランになるとかで。
それを聞いた客の一人は「ええー!なんだって!?」と怒っていた。

この地域の中国移民による中華度の進み具合は年々勢いを増しているので、古い古い住民たちは快く思っていないのだ。

でもね、世の中弱肉強食。
新移民たちのパワーと人口加速度は止められない。
かつてアイルランド人街にイタリア系移民がやってきた時だって、人々はよく思わなかったわけじゃないか。
なんだ、このイタ公ども。騒がしいぞ。うるせーぞ。子沢山の貧乏人どもめ。
英語しゃべろ、粗野な民よ。無教養ども!
そうやってイタリア人を差別しいじめていたじゃないか。

時代は巡る。
その「いじめられた」イタリア人経営の店が、アイリッシュコミュニティの中で惜しまれて幕を閉じた。

いつかは新しくオープンされる中華料理の店も、コミュニティの顔になるのだろうか。



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