Beasts of the Southern Wild

Posted by ジャンヌ(Mami Takayama) on 28.2013 映画&ドラマよもやま話
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去年の映画の中で好きな作品の一つに「Beasts of the Southern Wild」がある。
この小作品は堂々とアカデミー賞作品賞にもノミネートされた。
(日本では「ハシュパピー/バスタブ島の少女」という題名で公開されるらしい)

映画に出て来るバスタブ島とは架空の名前であるが、ルイジアナのニューオーリンズ近辺にはよくある隔離された小さなフィッシングビレッジ(島)で、実際撮影もそこで行なわれている。
ジャンルに「ファンタジー」とあるからネバーエンディングストーリーみたいな映画かと思いきや、全く違って現実的な話だ。

ニューオーリンズはハリケーンカトリナの記憶が生々しいが、この話もストームが軸になっている。
主人公のハシュパピーという少女が見る「Beasts(野獣)」も、自然の中で生きる6〜7歳の女の子の頭の中ではリアルな生き物であり、ファンタジーの中だけに存在する魔物ではない。
ストーム警報で島を出て批難する住民も多いが、ハシュパピーとダディと仲間たちは残る。車を持っている人たちにしてみれば、批難は簡単なことであるが、そうでない人たちには選択はない。

時には猛威を振るう自然の中で逞しく生き抜く少女の物語、と言ってしまえばあまりに陳腐だが、命とか死とかに興味を持ち始める6〜7歳の年頃の少女を通して、深南部アメリカのとある島の様子を描き出している。
お父さんと川で捕まえるキャットフィッシュ、大量に茹でたザリガニ、ワニのフライにグリッツ、飲んだくれの大人たち、トレーラーハウスにかかっている切れたマルディグラビーズ(切れているところが、マルディグラで実際にキャッチしたものではなくて、川に流されていたものを拾ったのかな、と思わせる。ニューオーリンズはすぐそこなのに、島民にとっては遠い、みたいな)、足下からムーンと感じられる湿気、いたるところに散りばめられた小道具が南部の空気を伝えてくれる。

ハシュパピー役の少女はなんと、アカデミー賞主演女優賞にまでノミネートされた。
子供がそんな演技できる分けないじゃん?と眉唾で鑑賞したとしても、観賞後には彼女に拍手を送るだろう。
オーディションで選ばれた素人の、全く演技経験のない少女を使ったところがこれまた成功の元。子役でも計算された演技だとこれは嘘くさくなる。演技をしようと思ってしたのではないのならば、彼女の演技力が賛辞されるものではない、スタッフの演出力&カメラワークが秀でただけだ、と思うかもしれないが、「かわいい(美しい)だけでも才能」と言われるように、演劇界では「いい表情をするだけでも才能」なのだ。
この少女は、演技の世界に重要な、人を惹き付ける「いい表情」というのを生まれながらにして持っていて、こればかりは「ない人間」がどんなに努力しても身に付かない。本人さえ気づかないものなのだから。
あの台詞まわしや表情や「反応」や仕草や動作は、天才子役と言われたダコタ・ファニングだってジョディ・フォスターだって出来なかった。

ダディ役も含め、役者はほとんど島の住人を使っている。ダディがドン・チードルやテレンス・ハワードだったりしたら、これまた全然違った映画になっていただろうし、それこそ映画くさくなる。
ただ素人を使っているので、どうしても下手な人も目立つ。素人使いが、この映画の成功と同時に失敗の原因でもある。
いい映画というのは、主役と同時に脇役が光る。
だがこの映画は、主役の少女とダディは上手いのに、脇役の素人がちょっと甘い。例えば飲み屋の太った女性。。。体格とか見かけはイメージにピッタリだろうが、もうちょっとマシな演技をしてほしい。それから白人の少女の小さい方の子(ハシュパピーと同じ年頃)。。。。この子は演技を一生懸命しようしようとしてしまっていて、妙に臭い。見ていられないシーンがいくつか。でもこれが、知恵のついた一般の6〜7歳の少女のレベルなのだと思う。カメラを意識して「なにかをしよう」としてしまう余計なサービス精神。
だとしたら、ハシュパピー役の子はとてつもなくやはり上手い。カメラが目前にあるというのに、そこまで自然にふるまえるのか。

いい仕事をしてくれたが、オスカーがこの子に行かなくて本当によかったとも思う。
この演技が、「経験なかったから出来た」のではなく、「計算されて出来た」ときに彼女はオスカーを手にするべきであろう。
今後、彼女の才能がどう花開くか。
彼女はもう「ハシュパピー」のようには演じられない。あれは一生に一度だけの奇跡ともいえる。
そして今後彼女が女優になってもならなくても、あの奇跡を持てたことは宝物に間違いない。




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