セルマ

Posted by ジャンヌ(Mami Takayama) on 29.2015 映画&ドラマよもやま話
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キング牧師の公民権運動の映画。
時代は1965年3月。セルマというのは南部アラバマ州の町名で、Bloody Sunday(血の日曜日事件)の舞台となったところ。
キング牧師の偉業は数多いが、この映画は黒人の投票権の獲得までに焦点を当てられている。

黒人が選挙登録に行っても、次々に難問を出して登録不可能にさせる悪意のある登録官。そんなシーンから映画は始まる。
キング牧師が人種隔離撤廃に務め、人種隔離は連邦法で禁止になったのは前年の1964年。ノーベル平和賞を受賞したのも1964年。
キング牧師の知名度や活躍もあり、世界には表向き「人種差別はなくなった」かのように映っていたかもしれないが、南部では全く状況は変わらず、手を変え品を変えで黒人に対する白人の一方的な嫌がらせや差別は続いていたわけだ。

キング牧師の教えを受けた市民たちは、徹底的に非暴力の姿勢でデモにのぞむ。
だが警官から殴る蹴るの暴力や射殺事件までついに起こる。
ホワイトハウスに出向かい、時の大統領ジョンソンに投票の平等を保護する法案を頼みに行く。だが民主党の基盤を失いかけている南部なので、これ以上黒人の味方につくのに賛成ではないジョンソン。。。。
あるとき、デモの様子が全国放送でテレビに流れた。白人警察側の一方的な暴力。怪我して血まみれの黒人。女性や老人もいる。
それを観てショックを受けた北部白人たちもデモに参加するようになった。プロテスタント、カトリック、ギリシャ正教の牧師や神父、シスター、ユダヤ教のラバイたち。学生、一般市民。
デモの参加者は25000人に膨れ上がり、セルマの町から州都のあるモンゴメリーまで行進する。
橋の向こうで武器を持って待つ警官たち。だがこの日は無言で道を開ける。

警官が道を開けた様子を遠距離からみとめたキング牧師はその場で祈り、なんと引き返す。開かれた道を歩かないのだ。
映画の中のセリフでも出てくるが、「仲間の前で自分が叩かれたり殺されるのを見せたくなかった」と。
そうなのだ。キング牧師はずっと命を誰からも狙われていて、市民たちと行進するときはいつもどこでも「覚悟していた」という。防弾ガラスの車に乗ってマーチするわけではない。憎悪をもった白人たちのヤジもあるわけだ。デモの先頭に立つということは、いつでも銃弾が飛んできておかしくないということ。いつも命を張って行動していた。
セルマの行進のときも、警官側の態度は単なる罠かもしれない。道を開けておいて、キング牧師が通った時に射殺、ということだって十分あり得たわけだ。
もしそれが起きたら、黒人市民たちの白人への怒りは強くなり、キング牧師が理想とする非暴力運動ではなくなる。それをも考えての引き返しだったと思う。

ともあれ、連邦法で投票権の平等を勝ち取るまでが描かれているのだが、投票権というのがいかに大事かという根本的なことを思い起こさせてくれる。
当たり前のように投票権をいただいているとその重みを感じられない。
あれから50年が経ったが、現在の若い世代の黒人の投票率はすごく低い。投票を大切にするのは、当然だが60年代を知っている世代。どうやって自分たちの祖父母が、父母が、戦って投票権を勝ち取ったか。キング牧師の、市民の努力を知っている者は、リスペクトの意味でも投票に行くが、若い世代は「1票なんて何も変わらない」と思って足を運ばない。
こういう映画は、黒人の若い層にもよく考えながら鑑賞してほしいものだ。

キング牧師は子供の頃から秀才で、人柄もよく、カリスマ性があり、有能な演説家である。
だがキング牧師は実は女性関係が結構あって、デモ先などではホテルに連れ込んでいたらしい。キング牧師の訪れる先々にはFBIが盗聴をしかけていて、彼の活動情報だけでなく、女性関係も把握しちゃっていたわけだ。この事実はすでに何十年と噂では言われていた。
この映画でもちらっと出てくるが、その盗聴テープをキング牧師の家に送りつけ、妻のコレッタが聞くシーン。
FBIの質疑の場では、コレッタは「これは夫の声ではありません」と冷静に一切を否定していたらしい。だけど家庭内ではちょっと違うよね(笑)。「他の女性を愛しているのか?」と夫に聞くシーンも出てくる。
このコレッタさんといのは本当に魅力的な女性である。晩年までそのイメージは変わらず、美しくて聡明で上品だった。度重なる夫の浮気の噂など散々耳にしていただろうが、世間ではしらっとしていた。
キング牧師ほどの男性であれば、浮気くらいで人間の価値を下げないだろう。この男性の偉大さは、偉業は、そんなもので台無しにはならないのだ。
この浮気事実に関して、一部の保守クリスチャン系は許さない態度をとっているけれど、ダメ男がだらしなく浮気しているっていうのとわけが違うんだからね。
どちらかというと、そのくらいでバランス取っていた方がよほど人間らしいじゃん(笑)。と私は思う。
キング牧師の日々日常のストレス、殺されるかもしれないという恐怖、アメリカの黒人全体の期待を背負った責任感、任務、激務、半端ではない。とあるサッカー選手が言っていたけれど、ワールドカップで敵国のサポーターに試合前に暴言はかれるだけで、かなりメンタルはきついのだって。キング牧師は、公民権運動に関わってから毎日それ以上の暴言を誹謗中傷を浴びてきているのだから。その恐怖や緊張からの解放が、女性関係につながったとしたらうなづけるし、これは仕方ないと思うのだよ。そうじゃなくて本当にクリーンな人だったら、それこそ気味が悪い。
ま、キング牧師もすごいけど、妻のコレッタもあっぱれです。

さてさて。50年経ってやっと作られたキング牧師の映画。(テレビドラマはあったけれど)。
このキング牧師役をやったのも、妻のコレッタ役をやったのも、なんとイギリス人俳優。
そう、お二方とも、先祖や家族にアメリカの公民権運動や歴史に関わった人がいないという人物。これも皮肉。
アメリカにわんさかという黒人俳優。。。。なのに、オーディションで受からなかったのねー。
これも、俳優界のオーディションの公平性でしょうか。なに人であっても、演技が上手い人が選ばれる。その通りです。イギリス人俳優の演技の勉強は深いですから。ロンドン出身でも完璧なアメリカ南部人になりきれる。逆は無理だけど。
そういえば、映画「リンカーン」をやったのも、アメリカ史上最も偉大な大統領役をやったのも、イギリスのダニエル・デイ・ルイスだった。
イギリス人俳優のアメリカ進出、年々すごい勢い。



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