山田五十鈴追悼日記

Posted by ジャンヌ(Mami Takayama) on 10.2012 映画&ドラマよもやま話
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大女優、山田五十鈴さんが亡くなった。
享年95歳。大往生だ。

ご冥福をお祈りするとともに、彼女の出演作品の中で最も好きな3作品を挙げたい。

まずは黒澤明監督の「どん底」(1957年)。

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映画としても大好きな作品なのだが、山田五十鈴の悪女っぷりがよい。
まだ愛らしさの残る香川京子演ずるおかよをいじめにいじめぬく。
若さや美しさへの女の嫉妬。若さを失っていく女の焦り。
こういう底意地の悪さを演じさせたらこの人の右に出る者はいないだろう。
それでいて、すっごく綺麗なのだ。全く、たちが悪い(笑)。
三船敏郎演じる捨吉は、本当はおかよに惚れているのだが、昔の「仲」のお杉(山田五十鈴)にもしつこく誘われる。
その誘いを振り切りたいのだが、ふと捨吉がつぶやく。
「しかし、オマエは本当に綺麗だなあ」

そうなのだ。これは観客の感想の代弁だ。
映画の中で、おかよ(香川京子)は瑞々しくはちきれる健康な美を持ち合わせているが、対極する毒を持った美が山田五十鈴。
酸いも甘いも味わってきました、という貫禄。
美というのは本当は、このように裏の黒さがあるから光るのだ。とっても複雑なものなのだ。
それに比べりゃ、若さの純粋な美などとはまだまだ底が浅いだろう。
そう思わせる、きれいごともなんもないモノホンの女を演じることの出来る山田五十鈴さまなのである。



2作目は小津安二郎監督の「東京暮色」(1957年)

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明るい、あるいは物哀しくても微笑ましいドラマが多い小津映画の中で、これは異色作。暗い物語である。
幼い娘二人を捨てて愛人と家出してしまった母を演じるのが山田五十鈴。
その長女(原節子)との再会の場面から、山田五十鈴の哀切漂う演技は秀逸。
化粧して、背筋伸ばして着物を着ている山田五十鈴の姿の慣れてしまうと、ノーメイクで現れる麻雀屋の女将の彼女には驚くだろう。
雀荘に訪ねて来た美しく成長した娘を見て、申し訳ない哀しさと、母親の優しさと愛情と、そして同時に自分勝手に生きる性を持った女の生き様を、ワンシーンで表している。
そして映画の最後の方、居酒屋のカウンターで酒を飲むシーンは絶品。
日本酒のとっくりと杯と。哀しくも美しい表情と。
彼女の指の先までが哀切が表現されていて、いやー、もうこれは唸るしかない。

最後に、上野駅の列車の中で、来るはずもない娘を待っている様子。ここは涙。名シーン。

撮影時、山田五十鈴は39歳。
39でこんなに哀しい母を演じられるのは、やっぱり五十鈴さんは深い。
娘役の原節子とは、実は3つしか年が違わないのだ。
この年でまだ娘役ができる(言い換えれば、娘役しか似合わない)原節子に比べて、この難しい母親役が出来てしまう五十鈴さんは、やはり役者としては何枚も上手としか言いようがない。



そして最後に、成瀬巳喜男監督の「流れる」(1956年)

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幸田文原作の作品。
幸田文が実際にお手伝いとして柳橋の置屋で働いていた日々の、いわゆる人間観察記録。
家政婦は見たとかなんとかの、「家政婦もの」の立派な走りとも言える作品だ。
彼女はここで働いたからこそ観察眼が鍛えられたのだろうし、また、一般人が見ることも覗くことも出来ない華やかな花柳界の裏側を知ることが出来る立場を得ることが出来たのは、これまた幸田文という女性の類い稀な人格と嗅覚と才能でもあろう。

山田五十鈴は置屋の女将、姐さん。
娘に、生意気で、芸者にはなれなかった(なりたくなかった)高峰秀子。
芸達者なのだが年増のために売れない芸者に杉村春子。
売れっ子芸者に岡田茉莉子。
そして、置屋という女の世界、経済状況、客とのもめごとなどなどを垣間みる羽目になる「できた」お手伝い役は田中絹代。
。。。。と、豪華キャストの贅沢な映画だ。

柳橋という所は、台東区の神田川沿いにある場所で、かつては花柳界で華やいだ町だ。
この作品の時代背景は、花柳界が下火になり、置屋の経済状況も厳しくなっていったとき。
界隈から一つ二つと置屋が減り、料亭が減り、高度成長とともに町の姿が変わっていった頃。

私はこの近くの日本橋生まれなので、昔の柳橋の話は祖父母や父母からよく聞いて育った。
私が生まれた頃はまだかろうじて、綺麗な着物を着た芸者さんを見ることが出来たのとのこと。
今は老舗の寿司屋や料亭が数軒残ってはいるものの、もちろんもう置屋などはない。

ちょうど今年日本に帰ったとき、柳橋を歩いたので写真をいくつか。
映画に出て来るシーンと変わらないのは、柳橋と川沿いの風景くらい。


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映画「流れる」で素晴らしいのは、女優陣の競演。
そして目を見張るのは、やっぱり五十鈴姐さんの立ち居振る舞いの美しさ!!
昔の女優は山田五十鈴に限った事じゃないが、きちんと芸を身につけている。そして芸の磨きに余念がない。
幼い頃から身につけた三味線、日舞の振る舞いが、この映画の中でも発揮される。
演技だけでは出し切れない、短期間で演技をつけてもらった借り物ではない、「芸」の深みが山田五十鈴の一つ一つの動作に現れている。
着物をちょいちょい、と着るシーンの美しいこと! 
現代では特に、着物に負けて「着られて」しまう人が多いのだが、五十鈴さんの場合は着物から肌に吸い付いていくのだ。
彼女の立ち姿、振る舞い、腕、肩、腰、首、全てが艶っぽい。
いい着物を着るときに、精神が引き締まるというのか、芸者として「これから仕事に行く」という気合いと、誇りと、嬉しさが、彼女の体の端々に現れている。
「じゃ、行ってきます」と、玄関を出る時の彼女の着物の後ろ姿ショットは何回も出て来るのだが、その背中だけで、帯だけで、「粋」を表現していて気持ちがよい。

最後に、杉村春子と一緒に三味線を奏でる共演シーンは圧巻。
いや~!! カッコいい!!! 姐さん!!

斜陽の花柳界を、無くなってしまうのは時間の問題と分かりながら、影で見守るお手伝いの田中絹代の優しいまなざしも、ジンとくる。


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神田川沿い風景。舟宿の並ぶ光景は昔も今も変わらず。
対岸(左側)は中央区日本橋。右側が台東区柳橋。 川は区界でもある。
ここをデコちゃん(高峰秀子)が歩くシーンがある。
当時は砂利道で対岸にこんなにビルは並んでいない。


山田五十鈴さん、長い間お疲れさまでした。
貴女のスパイスが入った名作は、全く色あせることなく今後も人々を感動させることでしょう。




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