彼女はなにを思ったか

Posted by ジャンヌ(Mami Takayama) on 27.2013 思うこと/考えること
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前回の続き。

数ヶ月前に、シカゴでこんな事件があった。
シカゴの高級ショッピング通りで白昼、郊外からやってきた初老の女性が強盗に襲われ、身につけていた時計や指輪やハンドバッグを奪われたというのだ。
被害合計金額は、100,000ドルを超える。

白昼に「シカゴで最も安全なはずの場所」と言われる通りで堂々と強盗事件が起こったことも世間をビックリさせたが、被害金額が高いのにも驚いた。日本円で一千万円を超える高級腕時計や指輪が狙われた、ということにも。
その女性は、事件が起こってすぐに近くのニーマンマーカス(高級デパート)に駆け込み、警備員に事件を告げ、警察が駆けつけた。

その女性によると、ニーマンマーカスの近くを歩いていたら、若い(10〜20代)の黒人男性5〜6人に囲まれ、「つけているジュエリーをはずしてよこせ」と脅された。彼女が腕時計や指輪をはずすと、ハンドバッグと一緒に持って行って逃げたという。犯人のうち数人は、「ブレードヘア」だったらしい。
このニュースを聞いたとき、気の毒には思ったが、なんでそんなに高級なジュエリーを身につけて歩いているんだろう?と疑問に感じて違和感を覚えた。
本当にお金持ちのご婦人方は、人の目につくような高価ジュエリーを身に着けて街を一人で歩いたりなどしない。そういうときは男性同伴とするのも常識だし、一人で出歩くときは偽物(安物)ジュエリーを着けたりするのも普通だし、パーティに出席するさいにダイヤモンドを沢山身につけるときは車で移動が当たり前。
だから被害にあった女性は、お金持ちなのにお金持ちの常識を知らない人なのか、不思議だった。

アメリカには、日本にはない常識が沢山ある。
財布を尻のポケットに入れない。地下鉄でショルダーバッグは肩にかけるだけじゃなく、斜めがけにする。さらに常に手で押さえる。一人で乗る時に(特に女性)iPodを聞かない(イヤホンをつけない)。レストランやバーにて、バッグを椅子の背にかけない。などなど。
日本の電車内では、バッグのフタが開いたまま平気で乗っている女性たちも多いけれど、それはアメリカの都市では考えられないことで、「狙ってください」と宣伝しているようなもの。
外国人ならば、アメリカに来たら身につけないといけない常識であり、アメリカ人ならば、自然と学んで身に付く常識である。
100,000ドル以上の被害にあったという女性は、それらのジュエリーを身に着けて「一人」で「電車」でダウンタウンにやってきた、というから信じられない。

さて、さらに驚いたのは翌日である。
なんとその女性の事件は、「虚偽」であったことが発覚。そう、女性のでっちあげ事件。
一体なんのために。。。???

女性がそんなに高価なジュエリーを身に着けていたこともウソ。
黒人男性たちに囲まれたこともウソ。
通りには防犯カメラが設置されており、どのカメラにも事件の痕跡は残されていなかったのだ。

「事件」当初からこの女性の氏名は発表されなかったのだが(女性の希望により)、この女性が白人だったら「別の事件」に発展するなあ、と危惧した。そう、人種差別事件へと。
女性の年齢も含め、また女性への危険性も考慮し、新聞やニュースは一切女性の身元を明らかにはしなかった。
だが、黒人ネットニュースがすっぱ抜いた。でっち上げ事件を作ったのは「白人女性」だと。

この白人女性の目的は一体なんだったのであろうか?
ありもしない(あるいは実際家にはあるのかもしれない)ジュエリーに保険をかけ、強盗に見せかけた保険金狙いだったのか? 
あるいは、黒人たちを貶めるための虚偽事件だったのか?

前者の場合、犯人像を「若い黒人男性グループ」にしたのは、「いかにもありそう」だからであろう。警察が信じ込みやすいからであろう。前回の記事で書いた「iPhone泥棒」にしたって、実際に路上強盗事件に関わっているのは残念ながら、黒人の若者がほとんどなのだ。世間は連日報道される情報によって、「イメージ」というのを植え付けられる。映画のイメージなら否定もできるが、ニュースのイメージは事実である。
目的が後者の場合、彼女の話を聞いてみたいものだ。単なる人種差別主義者で黒人を嫌悪しているのなら、それはそれでこの事件は大問題だ。
でもあるいは、そうでないのかもしれない。彼女が実際に怖い目にあったことがあるとか、トラウマを持っていて精神的に脅かされていたとか。それが虚偽事件に発展したのならば、彼女はカウンセリングが必要であろう。

私も学生時代に一度、シカゴの地下鉄の中でスリにあったことがある。
背の高い男性と一緒にいたのだが、小さなポーチを肩からかけただけで、コートの上から出していた。電車に乗る時に私だけが5〜6人の黒人男性グループに囲まれ、電車に乗った時はポーチのジッパーが開いていて財布だけが抜き取られていた。一瞬のできごとである。
その後警察に連絡したら、女性警官から「ポーチはコートの中に」と注意された。コートの内側にショルダーバッグやポーチをかけるなんて(その分コートは膨らむ)、絶対に日本ではしない「ファッション」だ(笑)。着心地も悪いし。だが、当時のシカゴは今とは比較にならぬほど治安が悪かったせいもあり、確かに女性たちは一回り大きなコートの内側にバッグをかけている人が多かった。シカゴの冬は非常に寒いおかげで、長いコートが防寒だけでなく防犯の意味も果たしている。日本にいたときには無い発想であった。
(現在は当時に比べると治安が随分と改善されたので、こういう「ファッション」する人少なくなったけど。当時は夜間女性一人で地下鉄に乗れない時代だった)。

黒人たちは、自分たちが「悪者」のイメージにされることを嫌うが、実際に日常生活の中で「黒人の悪者」に被害にあったという「被黒人」たちは多いのだ。これは仕方のない事実である、「悪者」ではない黒人たちにとっては本当にいい迷惑だろうけれど。
幸い私はスリ被害だけだったが、その時に銃を突きつけられていたとか、殴られて怪我を負ったとかだったら、トラウマになっていたかもしれない。実際に、トラウマになる被害者たちは多いのだ。近所に住む男性(白人)は先日、夜遅く自転車に乗っていたら黒人男性にバットのようなもので殴られ、気づいたら路上に倒れていたという。盗られたものは、マウンテンバイクとiPad。骨折で全治数か月。彼は元警官。ガッシリした体格の男性でも、このような被害にあう。
義理弟はバスから降りた途端強盗に囲まれ、iPodとヘッドフォンを盗まれた上に顔面殴られた。黒人男性でも、黒人男性から狙われる。
毎日毎日多くの市民は、たかだか数百ドルの物品のために身体に大きな傷を負う。

「特定の人種のマイナスイメージを持つのはよくない」とされながらも、持たずにはいられない事件が毎日報道されるのがシカゴの社会だし、加害者の数だけ被害者がいるのだ。
「虚偽」は決してよくないことだが、そこまで行き着いた老年女性の心理に、一体なにが隠されているのか。究明されるべきところは、その点だと思うのだが。
人種差別事件になるとその女性に危害が及ぶ可能性もあり、彼女の身元は隠されているけれど、報道されるべきアメリカの心理の闇はそういうところにあるのだ。
そして、「人種差別事件」だと噛み付く黒人新聞が本当に報道しなくてはいけない点も、その女性の虚偽の真実の理由であろう。
後味の悪い事件であった。




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