American Sniper

Posted by ジャンヌ(Mami Takayama) on 22.2015 映画よもやま話
americansniper.jpeg


映画「アメリカン・スナイパー」
他の映画を観たときに、予告で惹きつけられたために観に行った。
予告では、一人のアメリカ兵スナイパー(狙撃手)が、イラクと思われる戦地で自爆テロリストと思われる少年に銃を向けて狙っているシーン。敵といえども、小さな子供に銃を向けるスナイパーのためらいがちな表情が映し出され、これは複雑な話だろうな、と期待したわけだ。

観終わったら、ずっと単純な描き方なのであったので正直ガッカリした(実在したスナイパーの話なので、極端な脚色はできないのはわかっているけれど)。
クリント・イーストウッドという人には、西部劇の俳優だった頃は全く興味がなかった。
正義のための暴力を正当化するような役柄ばかりだったし、「悪漢は敵」「悪漢なら殺してもよい」という保守派アメリカ人が最も好みそうなイメージの王道だったから。いくら役柄とはいえども、実生活でリベラルな俳優ならば、絶対にオファーを受けないだろうし。

でも俳優を卒業して監督業に移ってから、なんとまあ複雑ないい作品を生み続けた。
「ミスティック・リバー」、「ミリオンダラー・ベイビー」、「グランド・トリノ」など、アメリカの闇、誰もが目を向けない部分や題材、簡単に答の出せない問題を真摯に描き、感心させられた。
どちらかというと、アメリカ人があまり認めたくない部分のアメリカを、まざまざと見せつけた。
イーストウッドってこういう人だったんだー。単に右寄りタカ派の男だと思っていたけれど、実は思慮深くて考え方に深みのある、しかもそれを映画という作品で描けることのできる素晴らしい才能の持ち主だったんだー。。
実際イーストウッドは共和党支持者だったけれど、アフガンイラク攻撃をしかけたブッシュ政権を批判したりもしていて、政治的には右でも左でもないリベラルな一面を見せはじめていたりもした。

だから「監督」イーストウッドについ期待をしてしまっていた。
イラク戦争の話も、アメリカのスナイパーの目を通してもっとニュートラルに、そして奥深く、今まであまり考えていなかった問題をガンと突きつけてくるんだろうな、と。
ところが、正義のための戦争を、すなわち「悪漢」を撃ち殺すこと、敵をより多く倒すことを英雄的に描かれていて、かなーり古いタイプのアメリカ的な映画だったわけだ。人を撃ち殺すスナイパーがヒーローかあ。。。(ついていけません。。。)

映画の中で主人公クリス・カイルの葛藤や悩みも描かれてはいるけれど、このクリス・カイルは実際「敵を撃つことに全く罪悪感はない」という人物で、絵に描いたようなマッチョなテキサス人。
911の映像をテレビで観て、ムキムキと正義感とかアメリカへの忠誠心(これを単純だと言ったらアメリカの保守派には怒られるんだろうけど)などが沸き起こったシンプルマインドの人間なのだ。

イラク戦争って一体なんだったの? 近年で最も不可解な戦争だったんじゃない?というところから疑問を持ったら、このクリス・カイルというスナイパーの凄さとかヒーローとしての扱われ方とかに大いに首を傾げてしまう。
だから、「戦争はそこにあった」という出発点から、平たく言うと、「鬼退治に山に行きました」理論的に見始めないといけない(苦笑)。
それを大前提に観たら、それはそれはアメリカのネイビーシールズの仕事ぶりはすごい!頭が下がる!としか言いようがない(そうやって観客は飲み込まれる仕組み)。
マッチョマンなら憧れるに違いない。頭脳と体力と精神力。こういうタフな奴らを見ていると、日本がアメリカと戦争した過去があることが不可解に思えてくる。「タフな男はカッコよい」という単純発想から言ってしまえば、血も涙も無いテロリストたちと生死をかけて戦っているシールズは、その中でもスナイパーは、そりゃあカッコイイでしょうよ。その「カッコイイ〜」が、アメリカの若者を惹きつける軍の呼び水なわけなんで。血だとか武器だとかミリタリーファッションに恍惚とする男は、いつの世にもいるもんで。
あ、これって勧誘映画なのか?(そう思ってみれば納得いく)。

このアメリカの「レジェンド」となったクリス・カイルは4度のイラク遠征を経験しても生き残ってアメリカに戻ってきた(生存して戻ってくることがどんなに大変なことかは映像からも分かる)。
それなのに。帰国後、地元テキサスで、PTSDを患う元海兵隊兵士に射殺されてしまうのだ。なんとも皮肉。
イラクの激戦区よりも、地元アメリカの方が危険なんじゃないかって? これ冗談じゃないのだ。イラク戦争中、犠牲になったアメリカ兵の月間統計数よりも、シカゴでの銃犠牲者数の方がずっと上回っていたのを考えると、「シカゴサウスサイドの生活よりも、イラクの方が安全?」なんて皮肉に思ってしまったりもした。

イーストウッドが描きたかったのは、イラク攻撃で癒えない傷を負ったアメリカ兵の姿だったのかもしれない。カイルにしても、PTSDで悩む元海兵隊兵士にしても。
そうだとしたら、その傷の深さよりも戦地での戦いぶりのカッコ良さの方に焦点がいっていて、編集に問題があると言えなくもない。このような重点にしないと、アメリカの観客動員が見込めない、というシビアな問題も含んでいる。
もう一歩踏み込んで欲しかったというのが正直な感想。テロリストもひどいけど、他国に最強の武力を持って侵略するという根本の問題点とか描いてほしいわ。一般人は、それがいいことなのか悪いことなのか、そうしなきゃやっぱり仕方ないことなのか、なかなか答えが出ないんだから。だけどそんなことに疑問を持つ兵士なんていないわよね。葛藤してたらシールズなんかに入隊しないということ。

この映画、アメリカで大ヒット。史上のハリウッド戦争映画の中で最も成功してるんだとか(ええーっ)
アメリカには、やっぱり相当の愛国主義者が多いのね、ということを改めて暴いてくれた映画でもあります。



料理ブログ「アメリカ・多国籍食堂」もどうぞよろしく♪
最近のメニューは、スイートポテトとケールのサラダなどなど。



『黒人コミュニティ、「被差別と憎悪と依存」の現在』高山マミ著
Amazon
ビーケーワン
丸善&ジュンク堂
楽天ブックス
セブンネットショッピング



『ブラック・カルチャー観察日記』高山マミ著 
全国の書店で好評発売中!!
Amazon
スポンサーサイト