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I will remember you

Posted by ジャンヌ(Mami Takayama) on 30.2015 人いろいろ/人間
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人生で忘れられない男というものが、どんな女性にもあると思う。
私が27歳で、その男が31歳のときのシカゴでの話。

その人の名前を仮に「K」としよう。日本人。
Kが忘れられない理由は、今まで出会った男の中でも一番クレイジーだったこと、そして一番ハンサムでかっこよかったことが理由のトップに上がるあろう。いい意味でも悪い意味でも、普通の人ではなかった。
映画の中じゃないのに、その稀有なコンビネーション。カッコいい破滅型。そういう男が実際私の前にいた。

彼にアプローチされた時、周囲の彼をよく知る人たちが皆、「彼だけには気をつけたほうがいい」と私に忠告した。
。。。。危ないから。危険だから。彼だけはやめとけ。一緒になったら人生めちゃくちゃにされるよ。。。
彼の昔の友人である男性は、「Kにはすごく幸せにしてもらえるだろうけれど、同時に地獄も見なくちゃいけなくなる」と。

基本的にそんな男は好きである。酔狂と言われようが。
だが興味をそそられるものの、彼の過去の危ない話を周りから聞いて、足が竦んだのも事実。
そのとき私はすでに彼にデートを誘われていて、日にちと待ち合わせの時間と場所まで決まっていた。
だけど怖くなって、その日私はその男をすっぼかしたのだ。その「危険な男」とのデートを。

しばらくなんの音沙汰もなかったが、数週間経ってふと、彼は私の前に現れた。かなり酔っていた。
デートをすっぽかしたのだから怒られて当然だと思ったが、彼は静かに言うのだ。
「あの日さあ、ずーっと待ち合わせ場所で待ってたんだよね。。。。 デートにすっぽかされたのに、また会いに来る俺ってなんなんだろうね。」
かなり泥酔している様子のKは、8歳くらいの美少女を連れている。Kの娘だと言う。離婚したアメリカ人の妻との間の子供。その日は週末でKは娘と会える日だった。日本語は全く喋れないが、とても賢そうな理知的な顔をした髪の長い美人ちゃんだった。
私は彼に抱きしめられた。先日デートをすっぽかした罪悪感もあったし、目の前に彼の娘がいるという変な安心感もあって、彼が気がすむまで私は抱きしめられていた。
だいたい、幼い娘と一緒にいるのにどこで飲んできて泥酔しているのか。娘の手を引いて、娘の母とは違う女(私)のところにやってきて甘える男。
この妙な不安定な魅力に、私はやっぱり惹かれていってしまうのを感じていた。

寂しそうな顔をする彼の美しい横顔を見て、私は悪いことをしたと思った。人の噂や忠告で彼を判断しようとしたこと。
彼にどんな過去があろうと、悪い噂を誰が言おうと、私は私の目の前にいるKだけを見よう、と思った。

彼と改めて最初のデートをしたとき、彼は待ち合わせ場所に私より早く来て待っていた。
上背があり、胸板もあり、シカゴで見てもアメリカ人の平均より立派な体をしている。ジーンズにきちっとしたジャケットを来て、背筋を伸ばして立っていた。コカコーラのCMに出ていた頃の加勢大周(と言ってもわからない人もいるかもしれないが)をもっとハンサムにカッコよくしたような顔。この容姿は、シカゴでもかなり目立つ。
「今日もすっぽかされたらさ、俺ってかなり惨めだよね」と、美しい顔をしてKは言うのだった。

兄弟の話、両親の話、生い立ちの話、アートの話、小説の話。。。。。彼はとめどなく色々話してくれた。三島由紀夫のどの作品が好きか、で二人で何時間も討論したりした。
話題が豊富で面白くて深くて一緒にいて楽しかった。

だけど複雑な家庭環境などからくる彼の孤独感や心の傷も深くて、彫刻のような綺麗な彼の顔にはなんとも言えない独特の陰りがあった。そう、ジェームス・ディーンのような。
顔だけでなく、Kはきれいな手をしていたのだが、右手の甲にとても目立つ縫い傷があって、その紫色の大きな傷は、彼のあまりに美しい容姿と調和させるためにわざわざつけられたものなのだろうか?と馬鹿な発想をしてしまうくらいだった。
命が惜しくない人だったから、命を落とすような喧嘩などしょっちゅうしてきただろう。そのときに負った傷だろうけれど、最後まで聞けなかった。

彼はアルコールの量もすごかったけれど、ドラッグ中毒でもあった。
薬物はとことんまでやり、どうしようもなくなると抜け出そうと思ってカウンセリングに通い、しばらく止められるのにまた手を出すという繰り返し。
彼の部屋は油絵の具の匂いが充満し、キャンバスには迫力と気の細やかさで描かれた抽象画。バスルームにある注射器と、彼の生み出す美しい作品は、切っても切れないものだったのだろうか。

優しさと怖さ、繊細さと暴力的なところを持ち備えたKは、どっちみち自滅型自虐的な性質だった。
柔らかい優しさも、気が触れたような怒りも、彼の命を縮めるだけのようなもの。
周囲にいる人間はみな、最初は彼を助けようと優しく接するものの、いい加減呆れかえって手に負えなくなって離れていく。
彼と一緒に破滅する覚悟がないと、Kと一緒にはいられない。

デートしていた頃、彼はなかなか服を脱がなかった。紳士的な性格がそうしてるのだと思っていた。実際彼は、レストランでのマナーから話し方から全て、「酔っていなければ」とっても紳士なのだ。
服を脱げない理由がある、と言っていた彼がやっとシャツを脱いだ。上半身には、腕上半部そ含め前後にビッシリと刺青が彫られていた。「タトゥー」ではなくて、日本の鮮やかな刺青。
もともとの骨格がしっかりしているせいか、ジムできちんと鍛えられているせいか、均整のとれた美しい肉体に、これでもかと傷をつけるように彫られた模様。まるで綺麗な肌をわざわざ壊すために、苦痛に耐えてつけたような痣のようにも見えた。

そういえば、Kが「ジムに通っている」と言ったとき、私は大笑いしたことがあったっけ。
酒飲んでドラッグやってる不健康な人間が、なんでジムで体鍛えて健康的なことやるの?って。
彼は照れたように俯いて、「だってミック・ジャガーもワークアウトしてるって言うし、僕がやってもいいんじゃないかと。。。」と言ったのを覚えている。そこでまた笑ってしまったのだが。

とてもキュートな面を持ったKが、シカゴでも最悪に治安の悪い場所にドラッグを平気で買いにいく。
照れるような甘いマスクと、命をなくすことも恐れないような大胆なKの背中とのギャップ。

某お坊ちゃん大学を出たお金持ちのお坊ちゃんが、自らの力で底まで落ち、さらに地獄を求めてさまよっている。
彼はいつか人を殺すか、あるいは殺されちゃうんだろうな、そんなことを感じずにいられなかった。彼はどちらにしろ、長く生きられないと。彼はこの世界にフィットしないし、どこにいても彼は解毒できない。そして誰も彼を助けられない。

彼を助けられないどころか、Kと一緒にいたらいつか自分も破滅するだろう。そんなことは初めから分かっていた。
彼が手に負えなくなった頃、私は彼を見捨てるようにKの元を去った。もう彼も私を追ってこなかった。

あれからしばらくの間、風の噂でKのことをなんとなく聞いていたけれど、時代は変わり、もう彼のことを知っている人も周りにいなくなった。
ただ時々思い出し、思い出すたびに、ひょっとしてもうこの世にいないのかも、という考えが頭によぎった。いるはずない、とも。

今日、ふとしたことで、Kはとっくの昔にこの世を去っていたことを知った。
ああやっぱり、と驚きもしなかった。けれど、胸が痛くなった。やっぱりどこかにいてほしかったのだろうか。
つい最近、彼が私に隠そうとしていた刺青の腕を、なぜか思い出していた。

あれから、たまに死にたくなったとき、「Kと一緒に過ごしてればよかった」と思う時がある。
あのときKから逃げていなければ、私もとっくにこの世を去れていただろう、と。あのとき、彼と一緒に人生終わりにしてもよかったんじゃないか、と。
女友達は、「あの危険な男と別れておいてホントよかったねー」と思い出話のたびに私に言うけれど、本当にそうだったのかな、とときどき思った。

Kはさっさと、私を巻き添えずに逝っちゃった。
Kほど繊細でもなく、Kほど破滅的でもない私は、この世をまだのうのうと生きている。それって醜いことかもしれない。
ただ一つ言えることは、生きているおかげで醜いことも経験するけれど、美しいものにもたくさんさらにもっともっと触れてこられたってこと。その美しいものが、生きている糧で、この先まだまだたくさんあるって確信できる。
Kは、その美しいものを人一倍感じられる感性を持っていたのに。美しいものを感じすぎるが故、醜いものがさらに突き刺さって生きられなかったんじゃないか。

Kとの日々から長い年月が経ち、私は再び縁があってシカゴにいる。
あの頃なかった高層のトランプタワーの前には、あの時と変わらぬシカゴリバーが流れている。
Kと一緒に、このシカゴリバーに飛び込んだことがあった。若気の至りで、just for fun!
カップルが川に飛び込んだと誰かが通報して、警察沙汰になったっけ。自殺だと思われたらしい、違うんだけど。
濡れた服の上に毛布をかぶってブルブル震えながら、ポリスステーションで叱られた私たち。

あれだけ凶暴になれる男が、「あのさー、俺たち本気で付き合わない?」と言ってきたときの恥ずかしそうな顔。
酔わないと大胆になれないからなのか、乱暴だけど暖かい彼との初めてのキス。

トラブルメーカーなので多くの人に嫌われてもいたし、二枚目すぎて同性からのやっかみもかなりあったはず。
だけど今日、Kのことを知らせてくれた旧友(男性)が、「Kはカッコよかったよねー」と素直に言う言葉が嬉しかった。いろいろあったけれど、最初にKを形容する言葉は、それしかない。

Kの名前には星の名前がつく。「うちの親父がさ、ロマンチストでねー」って言っていた。
とっくに、知らない間に、星になっていた彼。 I will remember you.



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