「舟を編む」

Posted by ジャンヌ(Mami Takayama) on 21.2016 映画よもやま話
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ちょっと前まで、いい邦画情報を得てもアメリカでなかなかDVDが手に入らず、泣く泣く断念していたものだ(古い黒沢映画などは手に入るのだが。。。)
最近は国境も時差も飛び越えて手に入りやすい。テクノロジーに感謝しなくてはいけない。過去10数年の間観ていなかった邦画を、おかげで最近楽しんでいる次第。

「舟を編む」
とてもいい映画だった。「お、松田龍平が出てる!」と軽い気持ちで選び、どんな内容かも全く知らず、さほど大きな期待もしないで観た映画でとても感動できちゃうというのは、本当に得した気持ち。

ある程度大きな出版社の、一番地味でもある辞書を作る編集部の話。題材が面白い。
私は子供の頃から、わからない言葉があるとすぐに「辞書を引きなさい」と親から口癖のように言われて育った。本を読むのが好きだったので字を覚えるのも早く、幼稚園の頃は母親が使っている辞書を使っていた。辞書の説明の文字は漢字で読めなくとも、その単語に行き着くまでの道のりはひらがなとあいうえお順をさえ知っていれば辿り着ける。引けば引くほど、辞書を繰るのが速くなる。目に飛び込んでくる単語、単語。。。。目当ての単語にたどり着くまでに目に入ってくる別の単語単語。。。。一つの言葉を覚えるのに、同時にいくつもの言葉の意味を知れる辞書の偉大さ。辞書特有の薄い紙、匂い、指にしっとりついてくる質感。母や父が以前に引いた赤線。。。。

辞書というものは当然のように存在して、そこに載っている言葉や意味は絶対である。。。人が辞書に寄せる信頼感。
だが、辞書に掲載されている言葉を選ぶのも、それに意味をつけるのも、神ではなく人間。それぞれの出版社の人間たちが、膨大な年月を費やしてかき集め、削除や加筆を繰り返して選別し、言葉の説明を練りだして作った苦渋の結果の言葉の宝庫。

物語の設定は1995年。辞書の完成には15年や20年はかかるという。三省堂の大辞林(我が家は岩波の広辞苑だったが。。。)は28年かかったと映画の中で語られる。
完成時の2010年頃なんて、電子書籍がメインになって辞書なんて誰も買わないんじゃないか?なんて編集部内で危惧されている時代。
企画時点から大体の発売予定月を決める単行本、発売日がすでに決まっていて締め切りも変えられない週刊誌や月刊誌の世界とは大きく違う辞書編集部の世界。

気の遠くなるような地道な作業。言葉が好きでないとできない仕事。
編集部に配属される、不器用で真面目でいわゆる変人っぽい若手編集員のマジメさん(松田龍平)。
地味な作業には向いていないが、コミュニケーション能力に長けていて辞書編集部を救う西岡(オダギリジョー)。
編集長役の加藤剛、引退するベテラン編集員の小林薫というジジたちの中で、10年か20年後かに完成する次世代に通ずる言葉の責任を担う役の、個性的かつ対極的な若手2人がとてもいい。

この映画を通していいなあ、と改めて思ったこと。
すっごく好きなことがある者の強み。その好きなことに若いうちに出会えた者の幸せ(それを生活や仕事に十分活かせるから)。お金に変えられない好きなことに責任感を持ってやり通す人のかっこよさ。チームワークの大切さ。。。お互いに不足している者を補いながら一つの仕事をしていく仲間という者の素晴らしさ。

配役については、松田龍平が素晴らしすぎる。そしてオダギリジョーの相変わらずの脇役としての巧さ。
朴訥で、動きや表情やセリフの少ない難しい役を見事に演じている龍平くん。ああ、いい役者になったんだなあ。ものすごくおかしくてなんども笑ってしまう。
オダギリジョーは動作が綺麗だから、何度でも彼の動きを見るために映画を見直そう、なんて思ったりするのが常であるが、この映画の中の松田龍平は全くの「静」なのに、もう一度彼の演技を通して観たい、と思わせるほど絶妙。
静、暗の龍平に動、明のオダギリジョー。彼の軽さがうるさすぎず、やりすぎにならず、決してカッコ良くなく適度にダサい編集員役、いいコンビ。

世の中に龍平ファンは多いと思うのですが、私は、彼のデビュー当時はなんとも思わなかった。
優作の息子だとか、独特の色気を持った子だとか聞いても、なんだか全然ピンとこなかったし好みでもなかった。だから16歳のデビュー作の「御法度」も観ていない。
それから私もアメリカに移住してしまい、邦画も松田龍平の成長プロセスにも疎くなり。。。数年ごとに耳に入る、目に入る龍平くんの姿に「あれ?なんかいい男になったなあ」「めちゃくちゃいい感じで成長しちゃってる。。。」と感動を覚えたものだ。
独特の、他の人にはなかなかない(持とうとしても持てない)雰囲気、オーラ、艶というものが彼にはあるのね。それは元からあったものだろうけれど、成長とともにどんどんその艶も大きくなっていい形で開花している。開花に失敗する者もいるけれど、龍平くんはちゃんと育てた。
二世俳優で、しかも親が偉大すぎると、大成するのは難しい。デビューこそ恵まれていても、生き残るのは並大抵ではない。ここまで大物になれたのは、もちろんお父さんから授かった遺伝子も含め、自分にしかない味を自分のペースでしっかり築き上げたからでしょう。好きな女性に不器用に告白するシーンの表情(これは大きなシーン)から、玄関に座って靴を履く些細なシーンの姿まで、上手いなあ、演じていないように演じるのはすごいことです。
この映画もそうだけど、きちんと自分に合った作品選びをしているし、今後も大きな期待。

オダギリジョーも大好き。器用な俳優といったらこういう方を言うのでしょう。
スタイルいいし、アクションできるだけあって動きが普通は綺麗なんだけど。。。。この映画の役はダサめの役なので、そのオーラは全て消し去っているところもいい(笑)  コンビでお互いに映えるという関係が役者たちにはあるけれど、この作品の龍平&オダジョーコンビ、いいです。
ベテランの加藤剛、八千草薫(!)、小林薫が色を添えているのもいい。

この作品は美術も素晴らしい。辞書編集部の書類が所狭しと積み上げられた編集部内もいいし、マジメさんが下宿している2階建てのアパートが素晴らしい。階段、玄関、書庫、食卓。。。。美術さん、いい仕事してらっしゃいます。
内部はセットらしいが、外観は、なんか急な坂があるし本郷みたいだなあ。。。って思ったら、本当に本郷らしい。
本郷といえば、本郷散策記事を書いたこともある。本郷は東京大空襲で戦火を免れた地域が多く、今でも古い木造家屋が残っている貴重な地域。
映画を見たら、また本郷散策に行きたくなってきた。


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最近のメニューはブラックフォレストケーキなど。



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