「泥の河」と「木靴の樹」

Posted by ジャンヌ(Mami Takayama) on 03.2016 映画よもやま話
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以前からずっと観たくて観ていなかった「泥の河」(大体のあらすじはこちらを)をやっと先日鑑賞。
評判通りの名作。

まだ戦争を引きずっている昭和31年の大阪安治川河口が舞台。
川岸で食堂を営む両親を持つ信雄という少年と、ある日川にやってきた宿舟に暮らす姉弟との交流を描いた一夏のお話。
大人たちは全員が戦争経験者。皆が貧しく贅沢は言っていられない時代。そんな中で子供を必死に育てているし、子供たちも必死に生きている。

大人たちに「夜は近づいていてはいけない」と言われた宿舟では、姉弟の母親が売春をして暮らしている。信雄はそれを知らない。
父親を戦争で亡くした家庭の生きる道。女手一つで子供2人を育てていかなくてはいけない母親の事情が分かれば、どうやこうやと言えることでもなかろうが、皆が貧しい時代でも、卑しいことだと差別される人たちがいる現実。

舟で暮らす姉弟の暮らしを見て、あまりの貧しさに信雄は子供ながらに絶句する。実家が食堂の信雄はおやつにかき氷を食べているが、彼らは黒砂糖がご馳走だ。
ある日、食堂のラムネの瓶を3本くすんで舟に向かう信雄。だが、途中で思いとどまり、ラムネを次々と川に投げ捨ててしまう。
子供心でも、友達である彼らに「施す」という行為が、恥ずべきことだと感じたのであろう。施すというのはお節介でもあり、上から目線の行為でもある。貧しくとも明るく優しく生きている姉弟たちに、施す行為は侮辱であると信雄は無意識に感じるのだ。
姉弟が信雄の家の夕食に招かれた時、信雄の母は親戚に買っておいた女の子のワンピースを姉の銀子に着させる。「あげる」と言ったのに、銀子は着替えて丁寧にワンピースを折りたたみ、信雄の母に礼を言って返す。
そこにも、「こんなものは受け取れない」といった遠慮よりも、「我々は大丈夫です」と言ったプライドと「心配しないでください」と言った逆の気遣いが表れていて、小さな子供にそんなことされると、もう大人は何も言えない。

夏祭りの日、信雄のお母さんからお小遣いをもらって、信雄ときっちゃん(弟の方)は二人で祭りに出かける。「あれが食べたいなあ」「これが食べたいなあ」と目を輝かせて話すきっちゃんの、日常的な貧しさを感じさせるセリフが愛おしい。
だがお金を預かっていたきっちゃんは、二人分のお金を落としてしまい一文無しに。
「だったら先に食べておけばよかったなあ」というきっちゃんの子供らしい本音と、信雄の分までお金を落として不甲斐ないと感じる彼の罪の意識。
家に着いてから、きっちゃんの舟で彼は信雄に捕まえた12匹のカニを見せる。それを信雄にやると。信雄が断ると、きっちゃんはカニを次々に油の中に落とし、そしてカニに火をつける。火だるまになったカニは歩きながら、川に落ちていく。
野蛮な行為であるが、そんなことでしか信雄に罪滅ぼしができないきっちゃんの歪んだ心。

その日、客を取っているきっちゃんの母の姿を窓越しに見てショックを受け、信雄は家に帰る。途中、優しい姉の銀子に会うが、信雄は何も言葉を交わさず立ち去る。
翌朝、銀子ときっちゃんたちの舟が去っていく。何の挨拶もなしに、さよならもなしに。
信雄は舟を追いかけてなんども「きっちゃん」と叫ぶが、誰も中から出てこない。舟は川をずーっとまっすぐゆっくり走っていく。

この映画を観て、イタリア映画の「木靴の樹」を思い出した。
「木靴の樹」では、学校に通う息子の靴が壊れたため、父親が村の樹を切って木靴を作る。村の所有物である樹を勝手に切ったからと、家主からその家族は村を追われる羽目になる。
「泥の河」も「木靴の樹」も、貧しい人々が、生きるためにやむをえなくした行為のために、住む場所を追われる。
そして、追う方も追われる方も、余計なセリフが一切ない。静かに、去っていく。定めを潔く受け入れて生きる貧しい者たちへの敬意が、両映画に描かれている共通点。
「木靴の樹」は、追われた家族が去った後、戸外に一斉に出てきて見送る農民家族の仲間らの姿が印象的だ。セリフが一切ないが、追われる者への愛情と祈りが無言の中に表されている。そして、底辺に生きる者へ向けられる社会の不条理への静かな怒りがしっかりと。
「泥の河」も、見送る信雄の姿が泣かせる。自分が前夜、きっちゃんに冷たくしたからいけなかったのか、銀子と口をきかなかったからいけなかったのか、それが彼ら家族を責める原因になったのではないか。。。。 その後信雄は、混乱しながらずっとそれを自問し続け、一夏一緒に過ごした姉弟たちのことを想いながら生きていくのだろう。大人になる過程で、子供の頃には言葉にできなかったもやもやした怒りが何であるのか、きっとしっかりと感じていくのだろう。
追ってくれるな、とでも言うように、中から顔も見せずに川の上のすーっと走っていく宿舟は、悲しいながらも美しい背中を見せる。生き抜いていく逞しさでもあるような。

ワンシーンワンシーンが印象に残る、昭和の名作の1本であること間違いなし。


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